文学があれば孤独じゃない

 10年ほど前、『東京文芸フェスティバル』というイベントがあった。東京へのひとり旅を計画中に、文芸フェスのプログラムに中村文則トークイベントがあることを知り参加した。初めて見る中村氏は繊細で美しい青年だったが、それ以上に圧倒されたのは彼が文学について語る言葉の数々だった。深くて熱い文学の世界をもっと知りたいと思った。

 それから自分でいろいろ探っていく中で、大岡昇平と出会った。中村文則氏も推薦図書として大岡昇平の「俘虜記」を挙げているが、私が大岡昇平に心を掴まれたのは「事件」を読んだことがきっかけだ。なぜ法律家でもない人がこんな裁判小説を書けたのか?

 大岡昇平のことを研究したい。でもちゃんと研究するためには大学院に入らねばならずお金がかかる。そこで資格をとって働くことを思いついた。稼げる資格は難易度が高いので、勉強漬けの毎日だ。でも頑張る。大岡先生だって79歳で亡くなる直前まで、海外文学、語学、音楽、数学、法律、歴史、サブカルなどあらゆる分野の勉強を続けていたのだから。