「夜明けまでバス停で」

コロナ禍で、仕事と住むところを失っても、家族や友人に頼らず、行政の支援も受けず、バス停のベンチで夜を過ごしていた女性。実際にあった事件をモチーフにしたこの映画を、ぜひ見なければと思った。

事件直後の報道や、NHKの特集番組によれば、彼女は「自力でなんとかしようと考え、社会に助けを求めなかった女性」であり、家族も友人も元同僚も、彼女のためにもっとなにかできたのではないかと悔やんでいた。

彼女は何を思いバス停のベンチに座っていたのか、それを知る手がかりはなく、ずっと気になっていた。

映画で、板谷由夏が演じた主人公は、「かわいそうなホームレス」ではなかった。歯を磨き顔を洗い洗濯をし、必死で生き抜こうとする力があった。もし、彼女にあれほどの精神力がなく、道端で横になっていたり、万引きをしたり、無銭飲食をしていたら、警察に連れて行かれて安全な場所で過ごすことができたのかもしれない。でも、彼女は自分の意思でそれをしなかった。

周囲や行政に助けを求めないと、社会的孤立といわれる。でも、幼少期に「誰も助けてくれない」経験をした人間にとって、「助けて」と言うハードルはとても高い。

あの女性は明日の私かもしれない。